今川氏の重臣に三浦氏がいる。もっとも、今川氏に仕えた三浦氏には何流かがあったようで、そのことは、『今川記』『改正三河後風土記』『甲陽軍鑑』などの軍記物に三浦氏の名が多く散見できることでもわかる。「今川氏重臣三浦氏の系譜的考察（小和田哲男氏）」では、今川氏の重臣三浦氏を次郎左衛門家、小次郎家、縫殿右衛門家の三つの系統に分類されている。 『寛政重修諸家譜』によれば、三浦介義村の長子朝村に発する後裔が次郎左衛門家であると思われる。『系図纂要』には、朝村の子は氏村、朝氏、員村とし、いずれも宝治合戦において、三浦宗家の泰村とともに自害したとされ、朝村の子に「寛政譜」にあるような朝村の子朝信の名は見えない。ところが、「纂要」には胤村の孫の幸村の弟家村の子に八郎朝村の名が見える。しかし、この朝村のあとはいずれの系譜にもみえないが、この朝村も次郎左衛門家の祖ではないかと考えられる。 このように、朝村の出自に関しては疑問が多く、父とされる朝村が駿河小次郎兵衛・駿河守を称していることから、朝村の子が駿河国にあり、朝信なる子があったのかもしれない。朝信以降は下記参考系図のように「寛政譜」は掲載している。しかし、戦国時代のところでも諸系図によって若干の異同があり、いすれが正しいのかは詳らかにはできない。 今川氏重臣-三浦氏の歴史 さて、南北時代初期の宗久は、三浦左衛門尉を称して足利氏に属し、功を挙げ、正平七年（1352）九月、駿河北安東荘の半分を領したとされる。さらに、「鎌倉大草紙」に禅秀の乱のとき、足利公方方として今川範政がみえ、「…去程に今川勢三島に陣をとる。先陣は葛山同荒河治部大輔、大森式部大輔。今川門族瀬名陸奥守、足柄を越えて曽我中村を攻め落とし小田原に陣をとる。朝比奈、三浦、北条、小鹿、箱根山を越え衆徒と…」とあり、ここに出る三浦は、三浦半島の駿河ではなく、駿河の三浦氏をいうものと思われ、宗久のあとの高久か範永に比定される。 今川範政のあとを継いだ範忠は、永亨三年（1431）六月、狩野・興津・三浦・近藤・富士大宮司の諸豪族が反抗したことから、室町幕府は今川薩摩守に命じて範忠を支援させた。しかし、薩摩守は諸豪族に与し、逆に範忠を攻めた。「嶽南史」は、範忠がこれを平定したと記している。ここにみえる三浦氏は範永か範忠であろうと思われる。 以上のことなどから、次郎左衛門家は朝信の孫宗久の頃から、駿河の安東荘の国人領主として成長し、今川五代の範忠が駿河に進出したのちに、今川氏に属し被官化していったようだ。そして、次郎左衛門家は瀬名・朝比奈氏らとともに、今川家の重臣として用いられるようになった。 応仁の乱が起こり、今川義忠は東軍細川勝元側につき、三河・遠江の斯波氏方と戦った。文明七年（1475）の春、遠江の横地四郎兵衛、勝間田修理亮らが西軍に荷担して謀叛を起こした。義忠はこれを討つため駿河を立ち、久野佐渡守、奥山民部少輔、杉森外記、三浦次郎左衛門、岡部五郎兵衛らが五百余騎で従軍し、横地と勝間田の城を攻め落とした。ところが、この戦の凱旋の途中で、義忠は一揆の流れ矢にあたり討死をしてしまった。二十八歳の若さであった。義忠の横死後、今川氏は後継争いが起こり、義忠の嫡子竜王丸を擁する瀬名・関口・入野氏らと、一族で義忠の従兄弟に当たる小鹿範満を推そうとする三浦・朝比奈・庵原氏らの二派に分かれての抗争が始まった。この抗争は、竜王丸の伯父にあたる伊勢新九郎の奔走により、嫡男の氏親が成長するまで、範満が家督を代行するということで一応の収まりを見せた。ここに出た三浦氏は範高であろう。 その後の三浦氏 ところで、三浦次郎左衛門家が今川氏の重臣であったことを示す史料として、有名な「今川仮名目録」がある。これは七代氏親の頃（文明五年・1473〜大永六年・1526）に制定された分国法で、そのなかの一条に「一、三浦次郎左衛門尉、朝比奈又太郎、出仕の座敷さだまるうえは、自余の面々は、あながちに事を定むるに及ばず。見合てよきように、相計らはるべきなり」とあり、三浦氏は朝比奈氏とともに、今川家の筆頭第一に挙げられている。この三浦次郎左衛門も範高であろう。 範高のあとは範時で、上野介を称した。正勝・貞勝・氏俊の三子があった。「寛政譜」はこの系譜に疑問をもちつつも、長男正勝については、今川義元討死のあと、家康に仕えたとし、その子を正次・直信としている。次子貞勝は上野介を称し、今川氏に仕え、のち武田氏に属したとある。貞勝のあとは氏員とされ、氏員は横山城主で「今川分限帳」に一万六千石とある。 三子の氏俊は次郎左衛門を称し、剃髪して三休と号した。義元の討死後、今川氏真に仕え、今川氏没落のあと、武田信玄に仕え、その後小田原の北条氏直につかえ、北条氏没落後は浪人となった。その後、家康の旗本となり、寛永七年（1630）八十七歳で没した。氏俊のあとは三男儀持が継いだ。 戦国末期に至り、三浦次郎左衛門家は主君運にめぐまれず、今川、武田、北条、徳川とその主を変えていった。そして、大名にこそなれなかったが、子孫は徳川幕府の旗本となり、庶流なども生みながら、徳川旗本として存続したのである。 ■参考略系図 ・『寛政重修諸家譜』所収の系図をベースに作成。世代数が若干少ないのは、欠落があるのだろうか。 |
