熊野の国人領主有馬氏は熊野別当家の出と言われ、産田神社神官の榎本氏が有馬一帯に勢力をはり有馬氏を名乗ったことに始まるという。古くは寛治四年 (1090)「安楽寺文書」に有馬荘司が牟婁郡の内幡大将に任ぜられたとあり、また、保元・平治の乱のころには有馬実通、有馬忠方の名が見える。これらの事から、有馬氏は平安時代には産田神社の神官として熊野の一角に一勢力を築いていたことが知られる。
有馬氏の軌跡を追う 南北朝時代、有馬氏は南朝方として行動したようだが、後期の永徳二年 (南朝の弘和二年＝1382)ごろ、鵜殿城主の鵜殿氏と同様、北朝方に転じた。そして、北山勢との戦いで兄弟三人と家子若党数輩が討死している。 室町時代はじめの応永年間（1394-1428）、有馬和泉守忠永が阿田和（現御浜町阿田和）から行野（現尾鷲市）までを支配したと言われ、阿田和付近の神木に一族の榎本出雲守が館を構え、賀田（今の尾鷲市賀田町）では一族の榎本具行が城を築いていた。 『紀伊続風土記』 では、和泉守忠永は応永十九年（1412）に没し、そのあとを忠親とが継いだという。しかし、忠親は永正十八年（1521）に産田神社を造建したという棟札が残っていることから、忠永と忠親を親子とするには年代的に無理があるといえよう。話は前後するが、『熊野年代記』には享徳三年（1454）「有馬ト鵜殿ト合戦ス。鵜殿重道十九人討取ル。九月ノコトナリ。阿田和塩田加勢。」とあり、鵜殿城の鵜殿氏と阿田和で合戦したとの記録が残されている。この鵜殿氏と戦った有馬氏は、忠永と忠親をつなぐ人物（武蔵守常利か）であったと思われる。 忠親は子供に恵まれなかったため、甥の河内守忠吉を跡継ぎと決め、大永三年（1523）ごろ、木本の鬼が城のすぐ上の山上に鬼が城本城を築き隠居した。ところが、隠居後に実子が生まれたため、忠親は忠吉を久生屋（くしや＝現熊野市久生屋町）で自刃させた。怒った忠吉の親族は、忠親を鬼が城本城に攻め、敗れた忠親は自刃した。結果、実子孫三郎が家督を継いだが、有馬氏は勢力を大きく後退せざるをえなかった。そして、有馬孫三郎も子のないまま天文の末（1550ごろ）に死去した。 当時、新宮を本拠とする堀内氏虎が勢力を拡大しつつあり、有馬氏も堀内氏の攻勢を受けていた。氏虎は孫三郎の死後の有馬氏の内紛に付け込んで、二男（弟ともいう）楠若を有馬氏の養子に送り込んだ。こうして、有馬氏は堀内氏に乗っ取られるかたちとなり、以後、堀内氏と行動をともにした。さらに、氏虎の死によって楠若改め氏善は新宮に帰って堀内氏を継承したため、有馬氏は名実ともに断絶となった。
【参考書籍/サイト： ●御浜町誌 / 御浜町誌編纂委員会‖編集 / 御浜町 ●尾鷲市史 上巻 / 尾鷲市‖編 / 尾鷲市 ●熊野市史 上巻 / 熊野市史編纂委員会‖編 / 熊野市 ●新宮市史 / 新宮市史編さん委員会‖編 / 新宮市 ●熊野市百科大事典 ほか】 ■参考略系図 有馬氏の系譜に関して『紀伊南牟婁郡誌』では、 有馬和泉守忠永（応永年間（1394〜1428）) - 武蔵守常利（応仁頃（1467）） - 和泉守忠親（大永末頃（1528）に死）- 河内守忠吉（忠親の甥）- 孫三郎（忠親の実子）- 楠若（堀内氏虎の子、有馬に養子に入る） と記されている。 |
